教育をめぐる虚構と真実 (神保・宮台マル激トーク・オン・デマンド)を読んだ。このペアによる本は今までもいくつか読んできたが、これは中でも出色の一冊だと思う。神保がアメリカで高校・大学・大学院の教育を受けたことが議論に幅を持たせている。
いくつか面白いとおもった発言をあげておこう。(文章は適当に書き換えてあります。)
「ドイツやフランスの学校は純粋に学ぶために存在している。自動車教習所のような存在。そこには濃密な人間関係がなく、従って「いじめ」もない。」
「アメリカでは高校までの教育を大学で学ぶための準備期間だととらえられている。」
「アメリカの一般の高校生の数学の力は低いが、中にユダヤ系や中国系を中心にとんでもなくできる連中がいる。」
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さて、今日はこの本をダシにして教育についての持論を少し述べてみたい。主眼は「早期教育」について。
私はかねがね日本を「早期教育偏重国家」だと考えてきた。(ここで私が「早期」と言っているのは主に十代前半の時期をさしています。)
日本の小学上級生から中学生の頃の学力は世界のトップクラスだ。日本の私立中学・高校の入試問題、特に算数(数学)や理科の問題は恐ろしく難しい。有名中学の入試問題などは理数系を得意とする大人やエンジニアでもなかなか解けない。
あるいはスポーツや音楽の世界でも日本人の小学校高学年から中学生は世界的にみて非常にレベルが高い。日本の中学生のトップクラスが演奏するショパンのエチュード(ピアノ)やパガニーニのカプリッチョ(ヴァイオリン)はその技術的完成度で世界中の音楽愛好家を驚愕させる。
このように小中から高校くらいまでは日本人のレベルは非常に高い。それは日本の教育システムの成果だし、受験勉強のおかげと言えるだろう。しかし筆者のみるところ、高校から大学になる頃、つまり大人になるにつれて日本人は一般的に伸び悩む傾向にある。多くの分野で、大学になるとアメリカ人に追い付かれ、大学院で追い抜かされる。
一方、アメリカでは教育についてもっと息の長いとらえかたをしているようだ。日本人が非常に気にする小学生の基礎力診断テストなどではアメリカの子どもの平均点は低いことは事実。アメリカではおよそ詰め込み教育というものはないし、APやIBのようなエリート教育システムでさえ「答えよりも過程が大事」ということで徹底している。そのため「小学校の或る時点」での試験では日本人に比べて点数が取れないということなのだろう。
しかし、大学・大学院のレベルでみるとアメリカのレベルが高いのは疑いようのない事実。世界の大学ランキングをみればトップの方はハーバードやスタンフォードなど英米の大学がほぼ独占していて、東大や京大はずっと下にある。最近発表されたブッシュ大統領のEconomic Report of the Presidentの「教育」の項をみても「高等教育に関してアメリカは世界で圧倒的な地位を引き続き占めている」と高らかにうたわれている。(リンクを張ろうとしたらすでにオバマ大統領によって変えられていた・・・。)
これはどう説明したら良いか。神保・宮台のこの本で、神保は自ら通っていた某中高一貫校の話をしている。そこでは徹底的に生徒をしごいて東大入学を目指しているそうだ。しかし、このところその高校からの東大入学者数がどんどん減っているとのことだ。これが詰め込み教育の成れの果て、でないといえるのか?(東大入試はこのところ受験テクニックでは解けない問題が多いそうだ。)
どこで聞いたか忘れたが、あるアメリカの知識人がこう言っていた。
「中国が将来アメリカを抜く、などという人がいるが、間違いだ。その国の将来を占うには教育を観察するのが一番。中国ではいまだに記憶中心の教育をさせている。そんな程度の教育を行っている国がアメリカを追い越すことなど不可能だ。」
教育の目的は天才少年あるいは秀才少年を作ることではない。教育はもっともっと長いスパンを考えて行われるものだ。教育行政の原点は「どのような大人に育って欲しいか」というところにある。日本では、中学や高校の試験前に歴史の年号や英単語などを必死に覚え、試験がおわるとすべて忘れる、というようなことが未だに繰り返されている。それらが全く意味を持たないとは言わないが、それで人生体験が乏しくなり、底の浅いつまらない大人を生み出しているリスクがないかどうかの検証は必要だろう。
「ゆとり教育」と「詰め込み教育」の比較評価は小学六年生の学力テストで決めるべきではない。こんな当たり前なことをあらためて言わなければならないほど日本の教育行政のレベルは低い。今の日本は、世界の大学ランキングで日本の大学のランクが低く、英語の運用能力が世界最低レベルで、中高で必死に受験勉強をしても結局はゆとりあるアメリカ人学生に追いつかれ追い抜かれ・・・という状況だ。それでも今のシステムを変えようとはしないのはなぜだろう?
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