英エコノミスト誌の三月十四日号に、欧米の経済的対立が増していると書かれています。
その一つが国家による景気刺激策についてです。アメリカでは2008年から2010年までの三年間に費やされる金額の合計はGDPの4.8%となるようです(IMFの推計)。これに対して、日本は2.2%、ドイツは3.4%、イギリスが1.5%、フランスが1.3%・・・ということで、アメリカの景気刺激策の規模が突出しています。それを受けて、サマーズ(米大統領の経済アドヴァイザー)が欧州の財務担当大臣らに対し「世界の需要を高めることに尽力せよ」と言ったのに対し、欧州側の反応は散々だったと、この記事にあります。
実際、このような国家による経済対策(いわゆるケインズ的政策)に効果があるかどうかは専門家の間でも意見の分かれるところです。(というか、ポール・クルーグマン以外の世界的経済学者の多くはこれに否定的であるように、私には見えます。)
タイミング良く、英エコノミスト誌はウェブ上でこれについての大ディベートを行っています。「我々は皆ケインジアンか?」というのがテーマです。
ケインズ的政策を擁護しているのがカルフォルニア大学のDelong。彼のオープニングコメントをまとめると以下のようになります。
― ケインズの考え、つまり「政府が需要を創造して景気回復を図る」ということに反対の学者はかなり多い。
― これらの人はセイの法則の信奉者だといえる。つまり「供給が需要を決める」と考えている。
― しかしセイの法則は歴史的に否定されている。1999-2000のネットバブルで企業がコンピューターにカネを湯水のように使った時も、2003-2006にFRBが資金をばらまいたときも、どちらも同じように失業率が下がった。景気の浮揚効果に関して政府の金も民間の金も変わりないのだ。
― では今回の場合に限りセイの法則が該当するのか?Fama教授は「アメリカの財政は赤字なので、公共事業を行う場合には国債を発行して資金調達をしなければならない。これはクラウディング・アウト、つまり民間に行くべき金を政府が横取りするだけだ。つまりトータルでは何の効果もないもない。」という。しかし、米国債の利回りは下がっているのだから、これは当たらない。
これに真っ向から反対するのがシカゴ大教授のZingales。彼はケインジアンを以下のことを信ずる人だと定義します。
1)「流動性の罠」のような状態では金融政策は無力だ
2)財政政策は有効であり、政府支出は優れたツールだ。
3)政府の介入は意味がある。短期的効果は長期的効果より重要だ。
で、彼は「我々はみなケインジアン」という言い方は間違いといいます。何故なら・・・
1)American Economic Associationが2008年に出したマクロ経済に関する12の記事のうち、政府の役割拡大を支持しているのはたった一つ。
2)過去二十年間にマクロ経済でノーベル賞を受賞した四人の中でケインジアンは一人もいない。
さらに現状分析ですが、現在のアメリカの状況は消費不足で起きたのではない、と彼は言います。「実はブッシュ政権こそが最高にケインズ的な政策を行ってきたのだ。アメリカの個人は全く預金をせず、政府は巨額の財政赤字を計上してきた。政府はケインズ的政策により現在の経済危機が避けるどころか、それに大きく加担した。需要を喚起するためにグリーンスパンとバーナンキは金利を極端に低く誘導したが、これは長期的コストを無視した政策であり、それが家計の消費を加熱させ、金融セクターのリスクテイクをあおった。」
「2008年に経常赤字が6140億ドル、財政赤字が4550億ドル、軍事支出が7310億ドルもあった。これで「需要への刺激が不十分」とはとても言えまい。現在の危機は「需要の危機」ではなく「信用の危機」だ。金融セクターがガバナンスの問題で崩壊し、投資家が逃げ、融資がストップした。」
・・・という感じです。
中で「需要の危機」と「信用の危機」がキーワードだと思います。現在の経済危機を説明するのに有益な見方だと考えます。でもこの二つに明確な線を引くのはかなり難しいでしょうね。それと、日本の場合は財政赤字は大きいものの、個人の預金が大きい、軍事費は小さい・・・という特色もあります。
ともあれ日本の政治家は政府の役割を大きくすることが自分の権限を増やす道だと思っていますから、ケインズ的政策が大好きなんですよね。土建屋も潤いますし。一方で、アメリカ、特に共和党はそうでもない、というのが興味深いですね。
では、まとまりませんが、今日のところはこの辺で。
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