名城大学の河田信教授から氏の編著による「トヨタ 原点回帰の管理会計」をお送りいただいた。早速第三章までを拝読したところだ。河田教授とはたぶん二十年以上のおつきあいだが、学問に対する真摯な態度と実務家として現実を決しておろそかにしない目線はいつも参考にさせていただいている。
管理会計については素人の私だが、考えさせられることが多かった。
1)本書は非常にわかりやすい説明がありがたい。それでいて濃い議論が展開されている。特に、時々出てくる図表がポイントをついていて良い。
2)ごく大雑把にまとめると、トヨタ生産方式あるいはJITは従来の損益計算書にはマイナスに働くが、キャッシュフロー的にはプラスとなる。それだけでなく、JITにより在庫が減り、必要人員が減り、資金手当てが楽になる。まさに良いことづくめだ。これ自体はそんなに理解しにくいとも思えないが、PLに不利ということだけで敬遠する経営者も多いとのこと。そんな場合は本書を読めば答えは一目瞭然であろう。ただ、この問題は経済学に対するアプローチと共通するところがあると思う。一般的に経済学は、市場が完全に機能し、プレーヤーが完全に理性的に行動し、人・モノ・金は必要なだけ手に入る、ということが前提になっている。つまり「市場の失敗」はその分析の対象にならない。もしも資金も人材も場所も好きなだけ使えるという想定に立てば、JITの有利性はとたんに消えうせるだろう。でも現実的にはこういうボトルネックを想定するのは当然のことだ。この辺に思考が及ばないところが西欧の発想の限界かもしれない・・・などとふと思った次第。
3)キャッシュフロー経営などというフレーズが喧伝されて久しいが、そもそも企業経営の本質はそこにあるのではないか。中小企業の多くは資金繰りで四苦八苦しており、会社の生死の99%はキャッシュ・ポジションによって決まる。その場合に、何とか無駄なキャッシュが出ていくのを抑えようとするのは当然のことだ。必然的にJITに類似の行動に出ることになるだろう。特に日本の企業は一般に負債依存率が高く、キャッシュが尽きたときがデフォルトするときとなる。その意味で、もっともっとキャッシュの重要性を認識する必要があるはずだ。(決算のPLの数字ばかりを気にする投資家やマスコミにも責任があるだろうが・・・。)
4)管理会計と自動車作りとの関係をどう考えたらよいか?ここが私のひとつの疑問だった。この本で考えたことは、管理会計はいわば車作りに側面支援をしているのではないかということ。管理会計自体が車の品質向上に直接プラスになるわけはないが、人的資源と物的資源とカネを適切に配置することで、結果的により良い車をローコストで作る環境が生まれることになる。自動車業界は世界中で厳しい競争にさらされている。その中で、1センチ、1ミリでも他社より有利な状況にもっていくことが勝利への道となるのだと思う。その点で管理会計の重要性は決して軽んじてはいけないだろう。
5)最後にひとつだけ疑問点を。JITでは外部の視点はどうなっているのだろうか?つまり、自動車メーカーにとって自らが最適な調達方法をとろうとすることは理解できるが、それが部品メーカーその他とどのような関係にあるか、ということだ。たとえば今のように自動車の需要が大きく下振れした場合、JITにより自動車メーカーの傷が小さければそれでよいのか?その周辺にある関連会社の状況はどうなのか?JITには必ず相手方が存在しているが、社会全体としてどのようなシステムが理想なのか。ぜひこの辺のご意見もうかがいたいところだ。
では。
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